勝手にRECOMMEND 〜小吹隆文の、関西・アート・見聞〜
インタビュー  平成19年9月19日




もりぐち ゆたか
大阪府生まれ。国内外で個展、
グループ展多数。1999年、病院
や福祉施設にアートを提供する
アーツプロジェクトを設立(2004
年にNPO法人に認可)。関西労災
病院(兵庫)、松下こどもクリニック
(大阪)等で活動を展開中。

森口 ゆたかさん



近年、手をモチーフにした映像インスタレーションを
継続的に発表している森口(もりぐち)ゆたかさん。
深い精神性をたたえたその作品はいかにして
生まれたのか。彼女のもう一つの仕事、
ホスピタルアートとの関連も含めて語ってもらった。


――信濃橋画廊、ギャラリーはねうさぎの個展に続いて
手がモチーフですが、毎回撮り下ろしですか。

いえ、映像は全て同じものです。4種類のDVDがあって、
私や家族の手を撮っています。特別な指示はせずに自由に
動かしてもらったものを、作品ではすごく速度を落として
流しているんです。映像を見て思うのは、やはり大人の
動きはどこか作為的だということ。子供の方がパッと
手を動かしたりして、そっちの方がいいですね。

――会場ごとに見せ方が異なりますね。

やっぱりインスタレーションなので、会場の特性に合わせた
形が良いだろうと。元々イメージしていたのは教会の
天井画。ゆっくり動く天井画みたいなことをしたいと
思っていました。今回はとにかく大きな部屋(9m×10m
×天井高8m)を使わせてもらえたので、部屋いっぱいに
包み込まれる様な感じにしたいと思っていたんです。

――エリック・サティの音楽がBGMに使われていますね。

賛否両論なんですよ。最初は無音で見せるつもりでしたが、
主人に見せたら「怖い」って。それで制作中に聞いていた
サティの音楽を流すと、「これならゆっくり見られる」と。
一般の人に心をオープンにして見て欲しいという気持ちが
あったので、美術関係の人にはどう思われてもてもいいと
開き直って音楽を付けることにしました。

――表現自体は凄くシンプルなのに、それこそ家族の
手という事で、お互いを思いやる心とか触れ合いとか、
非常に深みがある事に感心しました。ご家族の手を使おう
と思ったきっかけ何ですか。

もちろん「touch」っていう、触れ合いですね。それが
どこから来たかというと、ホスピタルアート。今私が
やっている、病院とか福祉施設にアートを提供する活動
からの影響が大きいです。1998年から99年、主人の仕事の
都合で英国のマンチェスターに滞在した時に出合いました。
もちろん日本の医療現場にもアートはありますが、
寄贈だったり院長さんの趣味だったりで、病院に行って
アートに感動する事はあまりないと思うんです。英国で
美術館レベルのアーティストが真剣に病院にアートを
持ち込んでる姿を見て、「ああ、日本って医療施設のアート
はあればいいという感じだなあ」って。私も40歳を過ぎて
現代美術をずっとやってきて、中間管理職の悲哀じゃ
ないですけど、ここから先の人生見えてくるみたいな、
現代美術家としての残りの人生がある程度想像がつくじゃ
ないですか。そう思うと、私のアートってこれぐらいか
って感じがして。アートって絶対もっと何かあるはずだって
考えていた時に、そんな出合いがあったんです。
ホスピタルアートって日本ではまだ癒しとしてのみ受け
入れられている状況ですが、私にとってはこういう活動を
する事で、逆にバリバリの現代アートって何だろうとか、
リトマス試験紙的に対比させている所もあります。

――アートの初心者でもすぐ打ち解けられそうなシンプル
さは、そういう経験からきているのですね。

私はずっとホスピタルアートと自分の作品は分けて
考えていたんです。売名行為と思われるのが嫌だったし、
自分の作品が影響を受けて変わるのも嫌だった。
でも2004年に伊丹市立美術館で『いのちを考える』って
いう展覧会をした時、美術館から「ホスピタルアートを
やってる森口さんだからやってほしい」と言われて。
それ以降、徐々にこだわりがなくなってきました。
今の作品で、ようやく自然な形でホスピタルアートでやって
きた事が自分の中に入ってきた様に思う。それまで
「存在と不在」とか、いかにも現代美術っていう感じの
理屈っぽい事をやっていたんですよね。でも、結婚して
母になって、子供と接したり、病院に行っていろんな病気の
人と出会って、自分の中にいろいろ積み重なってきた
経験が今の作品に生きている。理屈じゃなくて、身体で
吸収してきた事がすっと出てきた感じ。あと、私の母が
年のせいか体が弱くなっているので、母の頭をなでて
やるような作品を作りたいと思って。ある意味母に
捧げたかった作品なんです。そういう気持ちで作ったから
優しい作品になったのかもしれません。

――お客さんの反応はいかがですか。

信濃橋画廊で個展をした時の事ですが、音楽関係の
方が入ったきり出てこないんですよ。心配になって
様子を見に行ったら、号泣されていたんです。で、
彼女が10年前に起こした自殺未遂の話をダーッと始めた。
心の琴線に触れたみたいなんです。今まで私の作品を
見て泣く人はいなかったので、初めての経験でした。
他にも泣いた人がいて、頭じゃなくてお腹の底で感じて
くれる様な、そんな作品が作れたのは凄く嬉しかったです。

――それも今までのプロセスがあったからじゃないですか。
過去の蓄積があって今に至ると言うか。いきなり今の
作品を作っても浅い表現にしかならなかったかも
しれません。森口さんは今、とてもいい方向に行ってる
様に私には思えます。

ありがとうございます。昔から見てくれている人にそう
言われて嬉しいです。


現代美術という、ある意味小さな文脈を乗り越える事で
森口さんの作品は深い精神性と普遍性を獲得するに
至った。全身を包まれる様な今回の作品を体験すれば、
あなたも素直に彼女の言葉を受け入れることあろう。
是非ギャラリーに来て、直に作品と接して欲しい。



『森口ゆたか展「touch」』
9月12日(水)〜22日(土)
11:00〜19:00(土曜は11:00〜17:00) 日曜・月曜休み
アートコートギャラリー
大阪市北区天満橋1-8-5 OAPアートコート1F
TEL 06-6354-5444
URL www.artcourtgallery.com

関連イベント 「医療とアート」フォーラム
9月22日(土) 14:00〜17:00
○14:00〜16:00 トーク&ディカッション
パネラー:森口ゆたか(NPOアーツプロジェクト代表)、
      岡田哲也(府中病院)
コーディネーター:本間直樹(大阪大学文学研究科准教授)
○16:00〜17:00 交流会
※定員50名。参加費1000円。
※フォーラムの内容については以下にお問い合わせを。
 NPO法人アーツプロジェクト
 TEL 06-6193-3387
 http://arts-project.com
※ご予約の方はアートコートギャラリーまでTELを。


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